声劇劇団 さくら座
赤い糸 作、らふぁえる
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ある日、突然神様が僕の前に現れた。
唐突に僕の命があと三週間で終わると告げられた。
僕は頭が真っ白になった。
なんで僕なんだろう、そう考えていたら神様が僕に言った。
「寿命の代わりにお前の赤い糸を見えるようにしてやろう」
こんな能力、なんの役にたつというのだろう。
僕には運命の人を探す時間も無ければ愛する時間も無いと言うのに。
それから一週間、僕は腐った。
まだその時になっていないと言うのに、死んだように生きた。
そして腐るだけ腐った後、僕に残されたのは二週間と言う中途半端な時間だった。
僕は次第に自分の左手の小指から伸びている赤い糸が気になるようになっていった。
「手繰ってみるか」
それが僕に残された最後の仕事のように思えた。
たとえ運命の人に逢えなくても悔いの残らないようにしようと。
そして次の日から僕の旅は始まった。
赤い糸をひたすら手繰って歩く。
赤い糸は目の前を延々と伸びている。
それは途方も無い旅に思えた。
多分運命の人には会えない、そんな気持ちにすらなった。
でも僕はひたすら歩いた。
首都圏を抜けやがて郊外に入った。
貯金はすべて使い切ろう。
その旅は一週間を過ぎた。
次第に周りに建物は無くなり、畑に囲まれるようになった。
その中をひたすら前進する。
そして雪の世界になる。
その時、僕に不思議な出来事が起こった。
僕の赤い糸に並行してもう一本の赤い糸が現れた。
それはどれだけ歩いても並行していた。
そして次の日、事態は急転した。
僕の糸に並行して伸びていた糸の持ち主が現れたのだ。
それは20代位の僕とさほど年の離れていない女性だった。
不思議な事に彼女も糸を手繰っていた。
つまり僕の隣をずっと歩いていた。
最初はお互い無言で歩いていたが、明らかに彼女は僕の同志だった。
僕は思い切って彼女に話しかけてみた。
「もしかして、貴方も神様にあったんですか?」
「はい、余命が三週間と宣告されました、貴方も?」
「はい、僕はあと一週間ですが」
「私はあと二週間です」
僕は彼女と沢山の話しをした、今までお互い孤独な旅だった分、仲間が出来たのは嬉しかった。
二人の赤い糸はそれからも並行して伸びていた、いつしか僕はこの糸の先が繋がっているんじゃないだろうかと思うようになっていた。
つまり僕は同じ境遇の彼女に惹かれていったのだ。
「中々ゴールが見えませんね」
「そうですね、早く辿り付かないと時間がありませんものね」
僕たちは同じ時間を共有し、精一杯の日々を生きた。
そして僕の時間は確実に減っていった。
それでも糸は延々と先に伸びていた。
もうゴールは見えないな、そんな諦めも生まれた。
そして最後の日、唐突にその時は訪れた。
僕の糸のゴールに辿り着いたのだ。
僕の赤い糸、それは途中で切れていた。
「は、ははっ」
僕は思わず笑った、こんな結末だなんて、滑稽過ぎておかしかった。
彼女はそんな僕を見て黙っていた。
次の瞬間、僕の意識は遠くなった。
遂にその時が来たのだと思った。
「もう、ダメらしい」
彼女にそう話した。
彼女は黙っていた。
彼女ともう一緒にいられない、それが心残りだった。
その時、彼女が信じられない行動に出た。
彼女は自分の赤い糸を引きちぎったのだ。
そして、その糸を僕の切れていた赤い糸に結びつけた。
「私の運命の人は貴方です」
彼女は泣きながら笑い、僕にそう言った。
僕はもう返事が出来なくなっていた。
「一週間後私も行きます、あの世で一緒になりましょう」
僕は幸せだった、この能力をくれた神様に感謝した。
「ありがとう」
最後の力を振り絞り、僕は彼女にそう言った。
彼女は僕の頭を膝枕し、そっと撫でてくれた。
先に行って待っていよう・・・そう思いながら僕の意識は薄れて行った。
完