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神の責任 作、長月 桜花

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幸一郎「んっ・・・ここは・・・どこだ?」

ルシェル「やっとお目覚めですか?」

幸一郎「き、君は誰だ?僕は自分の部屋で寝てたはずだが!?」

ルシェル「そうですよ、貴方は寝てましたね」

幸一郎「ここは・・・なんだこの部屋は・・・何もなくて、真っ白な・・・病院?て訳でもなさそうだし」

ルシェル「さすが漫画家さん、人よりも多少は非現実な現状を受け入れる事が出来るみたいですね」

幸一郎「で、どうやって僕をここまで連れて来た・・・それに君は一体誰なんだ」

ルシェル「これは失礼、私はルシェルと申します」

幸一郎「ルシェル?」

ルシェル「はい、それと貴方をここに連れて来た・・・と言う表現は少し違いますね」

幸一郎「どういうことだ?」

ルシェル「ここは、貴方の夢の中・・・と言えば分かって貰えるでしょうか?」

幸一郎「夢の中?そんなの信じられる訳ないだろう」

ルシェル「これは困りましたね、貴方ならすんなりと受け入れてくださるかと思ったのですが」

幸一郎「ふざけたことを言ってないで僕を早く帰してくれ!」

ルシェル「んー、そうして差し上げたいのですが。私も用事が終わらないと帰れないんですよ」

幸一郎「用事?」

ルシェル「はい、私も別に用も無く貴方の夢の中に入った訳じゃないですから」

幸一郎「まだそんな事を言ってるのか!」

ルシェル「あ、夢だと信じて貰って無かったんでしたっけ・・・そうだなぁ、これで信じて貰えますか?」

幸一郎「せ、背中から翼が生えて空を飛んだ!?」

ルシェル「信じて貰えましたか?」

幸一郎「何がどうなってるんだ!意味が分からない!」

ルシェル「まあ、混乱するのは当然かと」

幸一郎「き、君は一体なんなんだ!!」

ルシェル「夢に魔物の魔と書いて夢魔・・・と言えば分かっていただけますか?」

幸一郎「夢魔?君はサキュバスなのか」

ルシェル「おお、これは良くご存じで。ただ、私をあんな淫魔と一緒にされては困りますねぇ、これでも一応尊き方の使いですから」

幸一郎「それなら君は何の為に僕のその・・・僕の夢に現れたんだ!」

ルシェル「ふふふっ、ここが夢である事を受け入れようとしていますね」

幸一郎「それ以外に僕に説明は出来ない、現実世界で人が翼で空を飛ぶなんて・・・ありえない」

ルシェル「やっぱり貴方は飲みこみがいい」

幸一郎「それで何で僕の夢に入ったのかと聞いているんだ」

ルシェル「そうでした、お喋りが過ぎましたね。山形幸一郎さん、ご職業は漫画家で間違いはないですね?」

幸一郎「ああ」

ルシェル「それでこの前、連載していた漫画「超合体アステライズ」を完結させた・・・と」

幸一郎「その通りだ」

ルシェル「長期連載でしたものね、さぞお疲れになった事でしょうね」

幸一郎「ああ、8年も連載してたからな」

ルシェル「本当にお疲れさまです」

幸一郎「そんな事を言う為にわざわざ来たのか?」

ルシェル「いえいえ、これで帰ったら私が怒られてしまいます」

幸一郎「じゃあ何がしたいんだ!」

ルシェル「ふふっ、怯えていますね。隠しても分かりますよ・・・さて本題に入りましょうか。幸一郎さん、貴方は8年の連載の末にネタが無くなり、なかば無理やり連載を終わらせましたね」

幸一郎「そんな事!!」

ルシェル「ああ、いいんですよ。私には嘘は通じない、全て分かっていますから」

幸一郎「なんなんだよ」

ルシェル「ネタの尽きた貴方は自分が作り上げた時計の針を強引に止めた、一体どのような方法で終わらせたんでしたっけ?」

幸一郎「世界を・・・崩壊させた」

ルシェル「これは本当に強引な終わらせ方だ、登場人物は?」

幸一郎「・・・全員死なせた」

ルシェル「気持ちのいいほどのバッドエンドですねぇ」

幸一郎「仕方なかったんだ!本当はもっと早く終わらせたかったのに編集部が連載を引き延ばしにするから!」

ルシェル「そうやって自分に言い訳してたんですよね、わかってますよ」

幸一郎「一体なにを言いたいんだ!」

ルシェル「まあまあ、もう少し話しに付き合ってくださいよ、登場人物・・・そうだなぁ、ミナトはどうやって殺したんでしたっけ?」

幸一郎「狂ってしまったヒロインのアズサに刺殺された」

ルシェル「それではミナトの恋人だったマユカは?」

幸一郎「ミナトの死にショックを受けて自殺した」

ルシェル「これはなんという悲恋でしょう!じゃあそのアズサはどうしたんでしたっけ」

幸一郎「アズサは・・・世界中に」

ルシェル「世界中に?」

幸一郎「世界中に有害な毒を撒き散らして、ショウタに射殺された」

ルシェル「主人公ですね」

幸一郎「そうだ」

ルシェル「そもそも「アステライズ」は攻めてきた人間の敵をロボットで倒す勧善懲悪なSF作品でしたよね?」

幸一郎「その通りだ」

ルシェル「その為に戦っていた主人公達を貴方は殺したと」

幸一郎「もう他に方法がなかったんだ!」

ルシェル「主人公のショウタは最後どうなったんでしたっけ」

幸一郎「最後まであらがうと一人毒の世界に出て行った」

ルシェル「つまり死んだと」

幸一郎「そういう事になるな」

ルシェル「しかも恋人だったアズサに世界を滅ぼさせるとは酷い事をしますねぇ」

幸一郎「アズサは人間の醜い所を見すぎてしまったんだ!人間に父親を殺され、母親も殺され、そこをガミュードに漬け込まれ」

ルシェル「ガミュード、敵の名前ですね」

幸一郎「そうだ!そして心を無くしてガミュード側に立って地球を滅ぼしたんだ!」

ルシェル「それが貴方のストーリーだったと」

幸一郎「それしか無かったんだ!」

ルシェル「本当に?」

幸一郎「少なくとも僕にはそれしか無かった」

ルシェル「読者は納得しなかったでしょうね」

幸一郎「知るもんか、勝手に盛り上げて勝手にガッカリしたのはあっちだろう!僕の作品だ、僕の思うように終わらせて何が悪い!!」

ルシェル「あまり興奮なさらず」

幸一郎「興奮させてるのはそっちだろう!!」

ルシェル「ふふふふ、今の貴方は後悔に押しつぶされそうになっていますね」

幸一郎「後悔なんて」

ルシェル「ほら、貴方の作品の登場人物達が貴方に語りかけてますよ」

幸一郎「どういうことだ?」

ルシェル「ミナトとマユカが貴方に言っていますよ、この戦いの末に一緒になれるものだと思っていたって」

幸一郎「適当な事を言うな!」

ルシェル「適当かどうかは貴方がよくわかってるのでは?」

幸一郎「それは」

ルシェル「二人は浮かばれずに今も手を握り合って泣いていますよ」

幸一郎「やめろ」

ルシェル「ああ、今度はアズサが言っています。お父さんとお母さんを返してって」

幸一郎「アズサの両親の犠牲はエンディングの為に仕方なかった!」

ルシェル「貴方の作ったエンディングですね」

幸一郎「僕は作者だぞ!」

ルシェル「作者なら何をしてもいいと?それならこの世界を作った神がこの世界を好きにしてもいいと言う事ですね」

幸一郎「話しが違うだろう!」

ルシェル「いいえ、違いませんよ。貴方は「アステライズ」の世界においては神と同じ・・・ひどい神様ですねぇ」

幸一郎「僕はただの漫画家だ」

ルシェル「いいえ、貴方が描いていた世界では沢山の人たちが命を持ち、ストーリーと関係ないところでも日常生活を送っていた・・・それを貴方は全て殺したんです、どれだけの数でしょうね」

幸一郎「僕にそんな責任はない!」

ルシェル「敵の攻撃に怯え、それでもアステライズが守ってくれる・・・そんな希望を持ちながら生きていたんでしょうね」

幸一郎「そうだろうな」

ルシェル「それを貴方は全て壊した、沢山の人が絶望の中で死んでいったんでしょうね」

幸一郎「もうやめてくれ」

ルシェル「ほら聞こえますか?沢山の人の断末魔が」

幸一郎「やめろ」

ルシェル「うふふふ、耐えられませんね。貴方が殺した人たちの断末魔ですよ」

幸一郎「漫画の中じゃないか」

ルシェル「漫画の中でも命は命、貴方が一本の線を引いた瞬間に新しい世界が構築されたのですよ」

幸一郎「僕にはそんな力はない!」

ルシェル「と、思ってるのは貴方だけ・・・この世界には沢山の世界が構築されているのですよ」

幸一郎「お前は一体なんなんだよ!」

ルシェル「私は代弁者。声なき、かよわい命を救済する為にこうやって回っている者です」

幸一郎「それで僕をどうしたいんだ」

ルシェル「それは私が決める事ではありません、決めるのは貴方が作った世界の人々です」

幸一郎「僕の作った世界」

ルシェル「あ、どうやら決まったみたいですよ」

幸一郎「え?」

ルシェル「ショウタが言ってます、俺たちの戦いはなんだったんだ!って・・・おお、怒ってますねぇ」

幸一郎「ショウタ・・・違う、僕はこんな終わらせ方をしたかったんじゃないんだ」

ルシェル「さあ、審判の時間です。・・・残念、アステライズの人々はどうやら貴方を許さなかったみたいですね」

幸一郎「そんな、僕はどうなるんだ」

ルシェル「みんな迎えに来たみたいですよ」

幸一郎「う、うわああああ」

ルシェル「いってらっしゃい、アステライズの世界に。そこで自分の作った地獄をご覧なさいな」

幸一郎「いやだ、あの世界には行きたくない!」

ルシェル「自業自得でしょう、貴方がもっと良い神様であれば、こんな事にはならなかったのですから、諦めておいきなさい」

幸一郎「うわああああああああああああ!!!」

 

 

ルシェル「行ったか。これでまた一人落とせた・・・最近は天使の監視も厳しくて仕事をするのも一苦労だ・・・さっ帰ってサタン様にご報告せねば、この世界にはまだ沢山の無責任な神が居ることを、ふふふふふ」

 

 

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