声劇劇団 さくら座
最初の最後 作、長月 桜花
アルファ 人類初の完全な人工知能と自我を持った人型アンドロイド、主にお手伝い用や家庭教師用として開発されたので口調は穏やかだが厳しい一面もある。
クリス アルファが世話をしている家の子供、ヤンチャの盛りで度々アルファを困らせたり、時に怒られたりしている。
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アルファ
2065年、ある科学者が自我を持ったプログラムの作成に成功する。
2066年、学会でそのプログラムの倫理性や危険性が唱えられ紛糾する。
2070年、ロボット三原則を指針としてプログラムを更に開発する事で議論の決着となる。
2075年、大手企業のサニーが世界初の自律型人型アンドロイド、アルファを開発。販売を開始する。
クリス「ねえアルファー!」
アルファ「なんですかお嬢様」
クリス「ここの問題の答えが分からないの」
アルファ「ここはこの前教えたじゃありませんか。いいですか、まず」
クリス「解き方じゃなくて答えを教えてよ、この問題が終われば遊びに行けるの」
アルファ「ダメです、それでは宿題の意味が無いじゃありませんか」
クリス「ケチー、こんなんパソコンに聞いたらすぐに答えを教えてくれるよ」
アルファ「あの子達はそれがお仕事だからです、私のお仕事はお嬢様の成績を良くする事です」
クリス「まったく、これだからポンコツは・・・いたっ!!」
アルファ「何か言いましたか?」
クリス「むう、ロボット三原則を無視してー!」
アルファ「そうですね、今の子達ならこんな事は出来ないでしょうね。でも残念、私のプログラムはちょーっとしたバグがあってそれを利用すれば少しなら三原則を破る事も可能なんですよ。まぁ、こうやって小突く程度の事しか出来ませんが」
クリス「うう・・・サミーを訴えてやるぅ!!」
アルファ「訴えた所でサミーは何も出来ないですよ、何といっても私はお嬢様のお父様が子供の頃に買われた旧型、プログラムの更新も10年前に終わってますし、サポートだって終了していますからね」
クリス「まったく、他の子は最新式のアンドロイドを買って貰ってるのになんでうちだけ旧式なのよ」
アルファ「それはお父様に仰って下さい、それに旧型ですがお嬢様の勉強を見る事くらい出来ますからね」
クリス「パパのケチー!!」
アルファ「ところでお嬢様はどこでロボット三原則を習ってきたのですか?」
クリス「学校よ」
アルファ「そうですか、学校でロボット三原則を教えるようになったのですね」
クリス「あー、知らないなぁ?そっか10年前にプログラム更新終わっちゃったもんねー」
アルファ「ところでもちろんロボット三原則は言えるんですよね?」
クリス「も、もちろんよ」
アルファ「じゃあ言ってみてください」
クリス「え?えっと第一条、ロボットは人間に危害を加えたりする事は出来ない、それでえっと、あの」
アルファ「都合のいい部分だけ覚えましたね?いいですか第一条、ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。第二条、ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条、ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。ですよ」
クリス「そう、それよそれ!もう、今言おうとしてたのに!」
アルファ「まったく本当に都合のいいお嬢様なのですから。さあ、お喋りはここまでにして勉強を続けましょう」
クリス「これをここに持って来て・・・アルファあってる?」
アルファ「はい、正解です」
クリス「じゃあ遊びに行ってもいい?」
アルファ「まだお勉強の時間ですが、まあ良いでしょう」
クリス「やったー!アルファ大好きー!!」
アルファ「まったく調子のいいお嬢様ですね、あんまり遅くなってはいけませんよ?」
クリス「分かってるー、じゃあいってきまーす!」
アルファ「さて、私は晩ご飯の用意でもしましょうか、今日はお嬢様の好きな料理でも作ってあげましょうかね」
5秒沈黙
アルファ「18時58分16秒・・・お嬢様遅いですね、まさか何かの事故に巻き込まれたのでは?奥様、お嬢様を探してきます」
クリス「森の奥に来すぎちゃった、ここは一体どこ?暗くなってきたし、おうちに帰りたいよ」
アルファ「GPSは家に置きっぱなしだし、これは帰ったらお説教ですね、どこですかクリスお嬢様―!?」
クリス「ううー、来た道がわからないよー!」
アルファ「えっ?お嬢様が森に入って行った?わかりました、ありがとうございます」
クリス「あっ、人がいる!!あのぉ、すいませーん!」
クリス
私が話しかけた人、それはギャングの人達だった。
何かの怪しい取引の最中で、それを見ちゃった私は力ずくでもっと森の奥に連れてかれた。
きっとこのおじさん達は私の事を殺す気なんだ、なんとなくそう思った。
そう思ったら、私は無性にアルファに会いたくなった。
クリス「アルファー!!」
アルファ「かすかだけどお嬢様の声、聞こえてきた方角は・・・北北西!お嬢様いま行きます!!」
クリス「いや・・・いや!来ちゃいや!」
クリス
ギャングの一人がナイフを持って私に近づいて来た。
私は怖くて目を閉じた、ギャングの足音がどんどん近づいてくる。
その時、いてっ!と言うギャングの声がして私は目を開けた。
私が見たもの、それはギャングの腕をねじり上げるアルファの姿だった。
アルファ「お嬢様!大丈夫ですか!?」
クリス「アルファ!!」
アルファ「もう大丈夫ですからね!お嬢様はそこを動かないで下さい!」
クリス「うん!」
アルファ「お前たち、よくもお嬢様を」
クリス
次の瞬間ギャングがアルファにナイフで切りつけた。
でもアルファに当たったナイフが逆に折れた。
アルファ「残念でしたね、私は人間じゃないのですよ。・・・えっ?なんでアンドロイドが人間に危害を加える事が出来るのかって?それは私が欠陥品だからですよ!」
クリス
アルファは5人いたギャングたちを次々を叩きのめしていった。
嘘つき、私には小突く程度の事しか出来ないって言ってたくせに。
そして最後の一人が倒れてあたりはシーンとなった。
アルファ「お嬢様、大丈夫ですか!?」
クリス「うん!アルファありが」
クリス
私はアルファにビンタされた。
アルファ「なんでこんな森の奥に入ったんですか!」
クリス「ごめんなさい」
アルファ「私が来なかったらどうなっていたと思っているんですか!」
クリス「あのね、これをアルファにあげたくて」
アルファ「これは、花輪??」
クリス「頭にかぶるの、私いつもアルファの事を困らせてばっかだから」
アルファ「お嬢様」
クリス「それでいろんなお花を探してたらついこんな奥まで、本当にごめんなさい」
アルファ「・・・とにかく無事でよかった、家に帰りましょう」
クリス「うん!」
クリス
なんでパパが私にアルファをくれたのか分かった気がした、他のアンドロイドだったら私を守れなかった。
パパは私の為にアルファをとっといてくれてたんだ。
その時、アルファの体からピピッて音がした。
クリス「アルファ、なんの音?」
アルファ「これは残り電力が少ないって合図ですよ」
クリス「大丈夫なの?」
アルファ「はい、帰って充電すれば大丈夫です」
クリス「じゃあ、アルファもお腹ペコペコって事だ、私と同じだね」
アルファ「ふふっ、そうですねお腹がすきました」
クリス「あははっ、アルファったら人間みたい」
アルファ「実は人間だったりして」
クリス「人間はナイフを折ったりできませんー」
アルファ「それもそうですね」
クリス
私はおうちに帰ってからやっぱり私を探し回っていたパパとママにすごく怒られた。
それをアルファはかばってくれた。
クリス「かばってくれてありがとう、アルファ」
アルファ「お嬢様には私が怒りましたから」
クリス「うん、本当にごめんなさい」
アルファ「もう森に入ったらダメですからね?」
クリス「うん」
アルファ「約束できますね」
クリス「約束する!」
アルファ「はい、それじゃあご飯にしましょう」
クリス「うん!あ」
アルファ「どうしました?」
クリス「アルファ大好き」
アルファ「私もお嬢様の事が大好きですよ」
クリス「えへへ、ありがとう」
アルファ「さぁ、食事が冷めてしまわないうちに、私は充電していますから」
クリス「はーい」
アルファ
私はリビングに向かうお嬢様の後ろ姿をずっと見ていた。
そして、お嬢様が食事を終えて寝付いた後にそっと旦那様に話しかけた。
アルファ「旦那様、実は」
アルファ
旦那様はとても寂しい顔をしていた、そうまるでお祖父様に怒られて泣きそうになっていた、あの頃のように。
私はお嬢様に嘘をついた。あの時に私の体からした電子音、あれは電力切れの合図なんかではなくて私のバッテリーが限界を迎えた合図だった。
サニーはとっくにサポートを終了している、もう私には替えのバッテリーは無い。
つまり、私はあと3時間42分14秒で稼働を停止する。
記憶回路も消えるだろう。
私はお嬢様の部屋に入った、お嬢様はスヤスヤと寝ていた。
その時、私の両目から液体が流れ出た。
アルファ「オイル漏れ?いや、違う・・・これは人間で言う涙?私のプログラムに涙を流す機能なんて入ってないはず、これもバグ?それとも人間が言う所の神様とやらの仕業でしょうか、だとしたら随分ひどい事をされる」
アルファ
私は流れる涙を必死に拭き、お嬢様の頬に手を当てた。
クリス「うーん、アルファ・・・だーいすき」
アルファ「お嬢様、アルファもお嬢様が大好きですよ・・・おやすみなさい」
完