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赤の意地 作、長月 桜花


 

真田大助
淀殿

大助
時は慶長十五年、大阪夏の陣。征夷大将軍徳川家康の天下統一は大詰めを迎えていた。先の大阪冬の陣で大阪城の防御力をほぼ失った豊臣軍は真田幸村、毛利勝永など主力部隊が唯一の勝機に賭け、徳川家康の本陣まで攻め入るが惜しくも家康の首をとる事に失敗し敗走。ここに豊臣方の進退は極まろうとしていた。

淀殿「そんな・・・左衛門佐の部隊が壊滅?」
大介「はっ、父も行方知れずとなっております」
淀殿「左衛門佐の事じゃ、きっと・・・きっと生きているのであろう?」
大介「それは」
淀殿「他の部隊は、豊前守は何をしておるのじゃ!」
大介「毛利様を含め、お味方・・・総崩れにございます」
淀殿「どうにかせぬか!それでも名将真田幸村の息子か!」
大介「この期に及び徳川に対抗する手立てはもうございませぬ」
淀殿「もう、しまいと言う事か?」
大介「申し訳ございませぬ」
淀殿「わらわのせいか・・・わらわが豊臣を滅ぼすのか?」
大介「豊臣は滅びませぬ」
淀殿「どういう事じゃ」
大介「父から策を授かっております、その通りにしていただければ」
淀殿「まことか!秀頼は関白になれるのか!?」
大介「それは・・・無理でございます」
淀殿「豊臣は滅びないのであろう?」
大介「太閤殿下の血は絶やしませぬ、しかしそれ以上の望みは捨てて頂きたく」
淀殿「左衛門佐の策とはあくまでも秀頼を生きながらえさせる為だけの策と言う事か」
大介「・・・はっ」
淀殿「それでは豊臣も滅んだと同じであるな」
大介「生きてさえいれば豊臣再興の道もいずれありまする!」
淀殿「殿下恩顧の者も徳川につき、領地を失い、この大阪城も失くし・・・秀頼に何が残ろうか」
大介「時が残ります、機会も残ります」
淀殿「その頃には徳川の世は磐石のものとなっておろう」
大介「では御袋様はこの大阪城と共に秀頼様のお命を徳川の世の為の人柱にされると申されますか」
淀殿「わらわは秀頼の母であるぞ、我が息子の命が惜しくない親が何処におるのじゃ」
大介「それでは!」
淀殿「しかし、今の時勢に何処に秀頼が生きていける場所があると言うのじゃ」
大介「これは・・・真田左衛門佐幸村の策でございますぞ、抜け目はございませぬ」
淀殿「秀頼は何処に行く?何処に逃げれば生き延びれるのじゃ」
大介「島津様の所でございます」
淀殿「九州か?」
大介「はい、島津義弘様とは既に父が約定を交わしております」
淀殿「左衛門佐はそこまで手はずを整えておったのか」
大介「父はそう言う人間でございますれば」
淀殿「しかし、どうやってこの大阪城を抜けるのじゃ」
大介「まず城を西に抜け、明石様の部隊と合流いたします」
淀殿「左近将監と?」
大介「はっ、そして包囲網を突破しそのまま九州に向かいまする」
淀殿「無謀な策だのう」
大介「そうは思いませぬ、徳川の兵はけして練度も高くなく、士気もさほど高くありませぬ、毛利様、父が家康本陣まで突入出来たのが良い証拠にござる」
淀殿「機会はあると申すか」
大介「はっ!」
淀殿「さすが左衛門佐の息子じゃな」
大介「私は父には遠く及ぼませぬ、しかし私とて真田の人間、この六文銭の意地は捨てませぬ」
淀殿「三途の川の渡し賃か・・・それだけの覚悟を持って戦場に望んでいるのだな」
大介「その通りでございます」
淀殿「大介、秀頼の事を頼みましたぞ」
大介「何を申される、御袋様も行きましょう」
淀殿「女の足では敵陣突破も九州への旅路も足でまといになろう、わらわは行きませぬ」
大介「それはなりませぬ!」
淀殿「それにな、わらわはもう疲れたのじゃ。小谷、北の庄、既に二回わらわは落城によって城を追われた、浅井の父上さまも柴田の父上さまも母上さまも城と共に運命を共にした・・・もう外から燃えゆく城を見るのは嫌なのじゃ」
大介「御袋様」
淀殿「さあ、もう時がない。行きなさい!」
大介「・・・ごめん!」
淀殿「秀頼・・・なんとしても生き延びるのですよ」
大介「秀頼様、行きましょう!!」

5秒沈黙

淀殿「これでよいのじゃ、さぁここから豊臣の最後の軍略を見せようぞ、なんとしても秀頼が逃げ延びるまでの時を稼ぐのじゃ」

大介
その後、御袋様は千姫を徳川に返し、交渉する素振りを見せるなどし、私達が明石隊に合流するまでの時を稼いでいただいた。
そして私たちは明石隊に合流する事が出来、徳川の包囲網を突破する事が出来た。
一息ついて遠くから見えた大阪城は炎に包まれていた。
一つの時代が終わった証拠だった。
しかし、豊臣の血はけして途絶えてはいない。
この先何年経とうと、豊臣は必ず徳川を倒してみせる。
私はその決意を胸に九州に向かって歩みを進めた。

淀殿
その後、秀頼と大介がどうなったのかと言う史実は無い。
しかし、後の世に一つの噂が広まった。

花のようなる秀頼様を、鬼のようなる真田が連れて、退きものいたよ鹿児島へ。

そして秀頼を匿った島津がやがて徳川幕府を倒す事となる。



 

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